平安初段 分解組手

平安初段の考察
平安の型は二段(松濤館流呼称)が最初に作られましたが、初心者には難しいということで、新たに初段が作られました。
この型の動作は、「蹴り技がなく」比較的易しい動作で構成されていますが、型の中心ともいえる術(身体操作)や基本技を使った戦闘法(コンセプト)を内蔵しています。
糸洲安恒先生が、この平安の型を創る時の相手役と伝えられている花城長茂先生は「他の古伝の型も平安立ちでやった方がより実用的である」と述べたといわれています。
この型が、実用化できないのであれば、後はどの型をやっても難しいと思います。
今までの実験結果では、この平安初段を組手に応用して素晴らしい結果を出している人もいます。
久保田先生は、平安初段を全ての型の中心に考えていました。
この型をよく研究研鑚され、身に付けることをお勧めします。


型の秘密
言うまでもなく、型はそのままでは使えないようにしてあるので、そのことに疑問を持たなければなりません。「初心者用の型」という言葉に惑わされて、大事なことを見過ごしてしまっているように見受けられます。
それを使えるようにするためには、糸洲十訓にある通り「口伝」が必要となります。
この型が解ければ、後の分解組手は容易に解けていきます。

首里手中興の祖である糸洲安恒先生の唐手心得十カ条(通称:糸洲十訓、明治41年発表)の六項に、「唐手表芸は数多く練習し、一々手数の旨意を聞き届け、是は如何なる場合に用ふべきかを確定して練習すべし、且入受はずし取手の法有之是又口伝多し」とあります。
要するに「唐手の表芸である型は数多く練習し、一つ一つの技の意味を聞くと共に、どのような場合に用いるのかということを確かめてから練習すべきである。また、突き方(入れ)、受け方(受け)、腕や襟を取られた時の外し方(はずし)、関節の決(極)め方(取り手)などあるけれども、これは口伝となっていることが多い」という意味です。
型を解釈するには「口伝」という「解説が必要」ということです。

一般的に見ることのできる型は、「表演型」と分類されるものです。
表演型では初心者が覚えやすいように、ひとつひとつの技が区切られていますので、練習するときは号令を掛けながら行うことができます。
しかし、この方法のままでは、動作が「STOP&GO」ということになり実用的ではありませんので、実際に使うためには、「口伝に基づいた組替え作業」が必要です。
従って、表演型が不必要と言うわけではなく、型を正しく覚える為にはこの手順が必要なのです。


移動稽古の意義
この「下段払い⇒追い突き」は、移動稽古にもよく使われる動作です。
移動稽古の意味は本来2つあると思います。

第一に、初心者用の練習です。その場基本稽古により、下半身を固定して上半身だけの動作にして、習得をしやすくし、移動稽古により上肢と下肢の一致を計るように作られたのでしょう。

第二は、移動稽古とは本来、型の一部を取り出し、2人で行う約束組手の前段階として行うべきものです。このときは、表演型の動きに、術(コツ)を加えて実用化ができる段階にして、動作の単独練習を行うというものです。
従って、上級者の移動稽古とは、型の中から技としてブロック単位に取り出し、下半身の動きを入れて単独練習をするものでなければ、練習する意味がありません。
現在は、第一の初心者用の移動稽古しか行われない為に、移動稽古と組手が乖離している結果となっています。

表演型の運足
後ろ足を前に進めるときに直線的に前に出すのではなく、前足に引きつけるようにして動線を湾曲させて前に出す運足は、膝が外へ開かないようにする矯正と力抜きの動作(腰を上下させない)としての訓練方法であり、投げ技などへの連絡動作の意味も含まれています。


第一動作〜第二動作(下段払い、追い突き)の疑問。
この「左下段払い⇒右追突き」は、どこの道場でも移動稽古として行われますが、この動作は組手では使えません。組手で使うには「左下段払い⇒右逆突き」となるのが普通です。
無理に解釈をすれば、相手が下がったので追い突きをするというものです。
しかし、下がっている相手を突いたところでダメージを与えることは難しいはずです。
それではなぜ「使えない動作」が最初の型に含まれているのでしょうか。

これに対する一般的な答えは「鍛錬用」あるいは「初心者用」というものです。
極端に言えば「足腰の鍛錬用であれば、スクワットを型にしてもいいのか」ということになり、さらに、鍛錬の為には負荷をかけるので、居着く動作が身に付くことになってしまいます。
また、「初心者であれば、使えない技を教えてもいい」ということになり、これも、やればやるほど「使えない技が身に付いてしまう」ということになってしまい、よく考えると矛盾が生じてきてしまいます。

この問題に明快に答えた空手関係の文書等は、私の知る限りまだ存在していないようです。
以下に久保田先生に教わった、口伝と動作の解説をします。
これが解れば、型の多くの部分が解読可能になります。


口伝(踏み換えの事)
空手の型の殆どは、「歩き足」の運足となっています。現代剣道やボクシングのような「継ぎ足」ではありません。しかし、組み手では多くの人が「継ぎ足」を使っています。

ここに大きな矛盾があるわけです。
このギャップを埋める口伝が「踏み替え」(スイッチステップ)です。

「左下段払い⇒右追突き」は、初心者が習いやすいように「バラバラにされた動作」になっています。「バラバラにされた動作」というのは、「本来は一拍子で行う動作を二拍子で行っている」ということです。
この2動作を実用化するには、「下段払いと追い突きを同時に行う」のですが、立ち方が下段払いは左前屈立ちであり、追い突きは右前屈立ちですので、これを同時に行うには、踏み変え運足(スイッチステップ)という術(コツ)が必要になります。

左前屈立ちで、左膝の脱力及び落下をしながら前進します。
右足が前に出て、右前屈立ちになる直前に左下段払いを行い、右足の着地と同時に右追い突きを行います。さらに、左足が後方へスライドします。上半身の左下段払い右追い突きの2動作と下半身の踏み換えを一拍子で行います。両足をスライドすることによって、拳に重さを乗せることができまた、間合いの調整が可能になります。


演武の時の注意点(騎馬立ちと前屈立ちと後屈立ちについて)
騎馬立ちの歩幅は、脛長さ+拳1〜2幅くらいが適当でしょう。
前屈立ちも後屈立ちも、騎馬立ちの歩幅が基準になります。
それより広いと「踏み換え」(スイッチステップ)ができなくなります。
昔の写真を見ると歩幅が狭いことに気がつきますが、このことによるものだと思います。


臨闘型への移行
「表演型」では動作を区切っているので「実用化」ができませんが、踏み換え運足(スイッチステップ)という術(コツ)を入れることにより、技(下段払い、追突き)+術(スイッチステップ)=技術(実用化が可能な動き)という動きになるはずです。

この動作のメリットは、右足前で左下段払いとなりますので、下段払いの手と体の間が大きく取れるので、相手の蹴りに押し込まれることがなくなります。
また、払う方向が前から横向きになるので、力がまともにぶつからなくなります。
さらに、体の入れ替えによるエネルギーを一瞬にして右追い突きにのせることができますので、突きの威力が倍増します。
この動作を行うには「脱力」を必要としますので、スピードも倍増します。
これらの、コツをひとつにまとめることによって実用化へ近づくことが出来ます。

第一動作 左方向へ 左前屈立ち 下段払い
左足を左方向へ半歩踏み出し、左膝の脱力を行い落下のエネルギーで前進します。
前進しながら右足を出すときに下段払いをします。 
※左手と体の間のスペースが大きく取れるので、余裕をもって蹴りを受けることが出来ます。
 
第二動作 左方向へ 右前屈立ち 中段追突き
左右の両足を同時に踏み換えて(スイッチステップ)中段突きを出します。


第三動作〜五動作 (応用:高速上段突き)

高速上段突き(古伝の術を使った高速上段突き)

競技の達人もすなる「高速上段突き」といふものを、麻呂もしてみむとて、するなり。

JKfan平成16年9月号に掲載された月井先生の「高速上段突き」の解説は、大変わかりやすく、読者の皆さんも大いにレベルアップのための練習の参考になったことと思います。
この特集を見て思い出したのが、元世界チャンピオン鈴木雄一氏のリズムのよい、飛び込むような追突きでした。彼が組手競技にフットワークを取り入れ、小さな体で国内外の試合で活躍して以来、世界の組手競技のスタイルは変わりました。
空手も、色々な人の技術を分析し整理すれば、新しい術(身体操作)が浮かび上がるかもしれません。願わくは、歴代のチャンピオンの技術をさらに分析して、後進の育成に役立ててもらいたいと思います。

さて、話を高速上段突きに戻すと、野球の投球フォームが人それぞれ違うように、突きひとつとってもやはり、人によって同じではありません。
基本の動作と実際の動きには、動作の乖離があります。これは、基本動作を様式化された型から抽出していることによります。それでは、基本動作は間違いかというと、そうではなく始めにフォームを整えるために必要だと考えています。

ひとつ例を挙げれば、「移動稽古で行う追突き」と「組手で行われる追突き」を比べれば理解できると思います。移動稽古の追突きは多くの場合、足を着地させてから突く、或いは足の着地と同時に突いていますが、組手や試合の動きをビデオに撮って再現してみると、突いた後に足が着地します。
従って、基本のフォームを覚えた後、使用するに際しては別の身体操作が求められるはずでので、どのような突きが合理的な突きなのか、今後も研究する必要があると思います。

今回、編集部から「高速上段突きについて特集をお願いします」という依頼がありました。
「私に云われても困ったなぁ」と思ったというのが正直な感想です。
私自身には、鈴木雄一氏や歴代のチャンプのような恵まれた身体能力はありません。
しかし、師伝のいくつかの技術を用いた私なりに考える高速上段突きでいいということで、編集部の許可を頂きましたので、術を使った「高速上段突き」を解説してみます。

古伝の技術とは、何代もかかって蓄積し精選練磨されてきた合理的方法の集合体ですので、それらを用いれば、凡人でも一流選手が行う技術に近づけるものと考えます。
ここでは、いくつかの術(身体操作:コツ)を用いて、高速上段突きを分析して解説をします。

「高速上段突き」を一言で言えば「高速上段"追突き"」です・・・これでは説明になっていませんね。改めて言い直しますと、高速上段突きに必要な要素は、「いかに早く運足をするか」「いかに早く突きを出すか」ということに尽きると思います。

そこで、問題解決のセオリーである「困難は分解せよ」の通り、まず幾つかのパートに分けて問題解決をし、その後、それらを統合して「高速上段突き」を構築する方法を取ります。
上段追突きの動作そのものは特別難しいものではありませんが、高速にするために加えるオプションである術(身体操作)は、個別に練習しなければ身に付けることはできません。
複数の身体操作を同時に練習しようとすると、相当に才能に恵まれた人以外は習得が困難になると思います。
個別に習得した後に、それらを上段追突に一つづつ加えて練習してみてください。
 
6つの術の単独練習
高速上段突きを、以下に述べる6つのパートに分けて見ました。
それぞれに幾つかの身体操作を、突きを行う前に単独で行ってみましょう。

1:中心を収める
中心軸については、10月号の特集に詳しく書きましたので参考にしてください。
体を自由に動かすための体勢づくりと考えていただければよいと思います。
第一のコツは、体の無駄な力を抜くこと。特に、顎の力を抜くこと。
第二のコツは、拇指球で立つこと。
第三のコツは、意識を丹田に落とすこと。(写真1)
津山克典先生の「基本練習の全て」というビデオで、足の指先を揚げて片足で行う基本動作を拝見しましたが、同じ機能的な意味合いでそうされているのではないかと思いました。
10月号では呼吸を止めて説明をしていますが、それはあくまで中心軸を作る過程、感覚を充分体得する前段階までの方法ということですので、感覚を体得すれば呼吸を止める必要はありません。
10月号に書いた内容は初歩の部分であり、中心軸を「作る」までを解説しており、中心軸を使うには、別の概念が必要であることを予めお断りしておきます。
1月号の永田先生の特集「覚醒せよ! 中心軸⇔二軸感覚」を参照してください。
 (写真1)中心軸

2:膝の力抜き
膝の力を抜くには、月井先生の高速上段突きの特集でも説明されていた、「膝カックン」のイメージで行います。(写真2)
何度かやってみると感覚がわかってくると思いますので、実際にやってみてください。
前屈立ちで前足の膝の力を抜いて、落下するエネルギーを前進するためのエネルギーとして転用します。落下によって初速を確保するためのものです。
 (写真2)膝の力抜き

3:スイッチステップ
体勢及び両足の前後を入れ替えるために、ジャンプしないで両足をスライドさせる方法です。
空手の型の運足は、足を交互に前に出す「歩き足」で構成されており、この意味するところは、両足をスライドさせて踏み替える方法(スイッチステップ)の示唆です。
平安初段(松濤館呼称)の最初の挙動である「下段払い→追突き」は、スイッチステップを用いて行うと実用化できます。スイッチステップについて、7月号の特集に詳しく書きましたので参照してください。
  
    下段払い(写真3)        スイッチ途中(写真4)       スイッチ追突き(写真5)

このスイッチステップのメリットとして
1:間合いを調整できる
2:スピードが速くなる
3:突きの威力が増大する
ことがあげられます。
通常の移動稽古で行う追突きのスピードと、スイッチステップを用いた突きのスピードを比べてみれば、この方法の優位性の一端は、理解していただけるものと思います。

4:ダブルツイスト
ダブルツイストの名づけ親は、谷派糸東流の谷長治郎先生です。
ダブルツイストとは、一拍子で腰を前後に振る動作のことです。
ダブルツイストを単体で行うには、騎馬立ち(並行立ち)で立ち、体全体をリラックスさせ、膝を緩めて、右腰を後方へ引き、(写真6)続いて右腰を前方へ出します。(写真7)(写真8)
帯が右左に揺れ戻るように、骨盤の水平移動を一拍子で行います。
そのときに、写真のように両手腕がブルンと自然に振れるように、肩や腕の力を抜いておいてください。
よく、「帯が揺れないように〜」ということを聴きますが、これは練習の最終的なカタチとして、外見上の動作を極力小さくしたときのことだと思います。
  
       (写真6)              (写真7)               (写真8)

次に、ダブルツイストを使って突きを行ってみます。
前半の腰の引きと同時に手を引き、後半の右腰を前にだす動作と一緒に手を前に放り投げるように突き出し、伸びきる手前で握り込みます。体全体を鞭のように使うことが重要です。
このダブルツイストは、突き、受け、投げなどに全ての技術に応用できますので、単体でも十分に練習してください。

5:二軸理論の身体操作(腰を捻らない)
中心軸と二軸理論は相反する概念ではないかと思われるかもしれませんが、「体を作る方法」と「使う方法」と考えてくだされば整理がつくと思います。

人間は二本足で足を交互に動かして歩きます。このとき、中心軸感覚のまま、走歩行するとどのような動きになるでしょうか。
この感覚で体を前へ進めようとすれば、振り出された脚と同側の骨盤(腰)が前方に動くように回転します。この骨盤の回転を補償するために、肩を骨盤とは逆方向に回転させることになります。これが中心軸感覚の走歩行、つまり我々が一般に行っている走歩行です。
つまり、逆の回転運動を相互に衝突させて打ち消すため体をねじりながら歩くので、エネルギーをロスすることになります。
そこで、中心軸を左右に移動し、体幹部の中心を維持しながら、そこを基点として、反対の骨盤と足を前進させます。

中心軸を両足の真ん中にあるまま、逆突きをすると腰を捻ることになります。(写真9)
中心軸を前足に移動させ、「股関節を折るように」突き側の半身を前に出します。(写真10)
そのとき、片足の骨盤を支点とすると回転半径が大きくなり、ロスがでますので、それを打ち消すために、型で使う運足が生きてきます。つまり、後ろ足を前に移動するときに、両足を寄せるようにして、内側に孤を描くような運足をすると回転半径が小さくなり、素早い体の入れ替えが出来るはずです。
注:2軸理論は常足(つねあし)として公開されていますので、詳しくはそちらを参考にしてください。(本当のナンバ常歩(つねあし)、木寺英史著、スキージャーナル)
  


   


          (写真9)                          (写真10)

6:上腕の力抜き
右手で相手の右手の人差し指を掴み、強く握ります。そのとき、前腕は力が入って硬くなっていおても、上腕の屈筋(力コブ)のところの力が抜け、柔らかくなっていなければいけません。
相手に上腕を触ってもらい、力が抜けているか確かめます。(写真11)
この上腕の屈筋に力が入ると、突きにブレーキがかかりスピードも威力も落ちてしまいます。
従って、上腕の伸筋は収縮し、屈筋は弛緩しなければなりません。
このような方法を古武術では「体を割る」と表現するようです。


 (写真11)
余談ですが、早く動いたのではこの「体を割る」状態を認識できませんので、サンチンやセイシャンをゆっくり演武するのは、この状態を確認しながら練習するためだと考えています。
以上で術(身体操作)の個別の解説は終了です。

次に、上段追突きに上記の術を加えて実験してみることにします。
最初は、解説のために比較的ゆっくり突いてもらい、最後にどれだけ早く突けるか実験してみました。

 
桧垣式 高速上段突きの実験

1:中心軸を作る
左前に構えます。体の力を抜いて、拇指球で立ち、丹田に中心を納めるように意識します。
これらは起こりをなくすためと同時に、すばやく動くための準備状態となります。(写真12)

2:前足の力を抜く(力抜き)
構えた状態から、前足の力を抜いて、重心を前に移動させ、落下による前傾を始めます。
膝の力を一気に抜き(写真13)ます。

3:前足を半歩引いて落下による加速をする
人間は倒れそうになると、自動的に体勢を立て直そうとします。
従って、意識で「膝の力を抜いて・・・」と思っても、本能的には倒れないように足を踏ん張るという行為を無意識のうちに行ってしまう場合があります。
力を抜けば倒れてしまうのですが、倒れないということは、まだ力が入っているということになります。そこに足があるからそうなるので、その前足の存在を消してしまえば確実に倒れることになります。これは、半歩引くことにより、落下による初速を早めることになり、その後に続くスイッチステップの予備動作となります。(写真14)

4:ダブルツイストで突きを加速する。
前足を半歩引いて、体が落下により加速し始めているときに、ダブルツイストを使って更に加速します。イメージとしては二段ロケットのような感じです。
別の言い方をすれば、膝の脱力をし、半歩引いて前傾姿勢をして、後述するスイッチステップは下半身の早さであり、ダブルツイストと腕の脱力によって上半身の速さを得るということになります。
それも素早く一拍子にて、小さくダブルツイストをかけ、右の突きを出し始めます。(写真15)

5:腰を捻らず、股関節で上半身が折れるようにして、上段突きを出す。
(今回の実験の写真では、前足を引きすぎているためにこの部分が上手く表現できませんでしたので、イメージだけ、お伝えすることをご了承ください。)
次にダブルツイストの後半には右半身が前に出ますが、そのとき腰を捻らないようにします。
腰を捻ると突きが遅くなりますので、その代わりに、左股関節を軸に右半身が折れ曲がるようにします。野球のピッチングをイメージしてもらえると、理解いただけると思います。
左股関節を中心として、右半身が前方へ飛んでいく感じです。
左足前で軸が左足に移り、右半身が前となります。
右半身に合わせて右足が引き寄せられ、回転半径を小さくして無駄な動きを抑えることになります。
これは型の中で表現される孤を描く運足に相当します。

6:腕の脱力と極め
右手の上腕の屈筋を開放し、突きにブレーキをかけないようにします。
突きが伸びきる寸前で指を握り込みます。この指を握りこむときに「バラバラ」と指が鳴るように握り込みます。(指の力が抜けていればできるはずですが、今回の実験ではそこまで出来ませんでした。)(写真16)

7:右上段追突きとなる。
後ろ足を前に移動させ、右前屈立ちとなり、最終的に追突きのカタチとなります。(写真17)
突きは、移動する右足が着地する前に終わっていなければなりません。
ピッチャーが投球した後のフォロースルーと同じようなものと考えて頂くとわかりやすいと思います。

  
     (写真12)               (写真13)             (写真14)
  
      (写真15)              (写真16)              (写真17)

以上、文書で長々と書いてきましたが、ここまでの動作を一拍子で行います。

練習をするコツは術(身体操作)を個別に練習し、それをひとつづつ加えていくのがよいでしょう。最初に全部を同時に行ったとしても、どれもが中途半端となってしまう恐れがあるからです。

普通の上段追突きと高速上段突きの比較
比較のための連続写真を撮影しましたが、大変申し訳けないことに撮影に失敗しました。
当初、高速カメラで、「普通の上段追突き」と「高速上段突き」を撮って比較しようと企画し、一秒間に8.5枚撮れるカメラ(現時点で世界最速だそうです)を用意してもらって撮ったのですが、突きが早すぎて途中の動作がまったく撮れませんでした。

実際に高速上段突きで撮れたのは、「構えたところ」と「突き終わったところ」の2コマだけでした。
普通に早く突いてもらった突きでは、「構え」「途中の動作」「突き」と3コマ写りました。
従って、前出の術を使った高速上段突きでは、約2倍近く早くなったということになります。

実験のモデルを務めてくれた方(私は密かにモルダー2号と呼んでいる。)には、型の分解を教えたことはありますが、術を教えるのは今回が初めてでした。
撮影前の一時間くらいの練習で、ここまで早くなることができたということは、それらの術がある程度合理的身体操作であったことを物語っていると思います。

1秒間に8.5枚撮れるということは、間隔が約0.12秒ということになり、構えから突きが終わるまで、(腕が伸びるまで)約0.12秒で出来たということになりました。
静止した状態から、約0.12秒でそこまで加速するわけですから、体に相当な負荷がかかることが予想できます。

普通の上段追い突き
  
     (写真18)              (写真19)              (写真20)

高速上段突き
 
      (写真21)             (写真22)

仮に、この高速上段突きを受け側からみるとどうなるのでしょうか。
人間が、何かの合図を見てから行動を起こすまでに、どれくらいの反応時間がかかるのか例を挙げると、クールなガンマン次元大介の早撃ちは0.3秒です。
日本国内で行われているモデルガンでの早撃ち(ルール:引き金を引き、微量の玩具用火薬を発火させ、その風圧で風船を割るまでの速さを競う)の全国大会のベスト記録は、合図から割るまでなんと0.261秒だそうです。
これを単純に比較すると、目視だけでは受けられないほど高速になったことになります。

フォーカスミットを使った練習
ただ、今回の実験においては、いいことばかりではありませんでした。
突きが高速になるに従い、実験者が「肘関節が抜けそう」と言い出し、最高にスピードが上がったあと、スピードが落ちてきたので聞いてみると「肘を痛めた」ということでしたので、実験を中止しました。そこで、試しに座布団を空中にかざして、それに対して高速上段突きをしてもらったところ、「これなら痛くなく突ける」ということでした。
私自身も以前同じような経験があったので、その経験から「巻藁」についてある仮説を立てていました。その仮説とは、「巻藁は、拳を鍛えるという他に、高速になった突きから肘などの関節を保護するために作られたのではないか」というものでした。今回の実験は、その仮説をある程度裏付ける結果となりました。
実際にスピードを殺さずに重いパンチを出す為には、力を抜いて屈筋を開放することが必要ですが、ここには矛盾があります。屈筋を開放して本気で突くとブレーキがなくなり、筋を痛めることになります。それを防ぐには、腕が伸びきる瞬間にやはり屈筋でブレーキを掛けなければなりません。
ブレーキが上手くかからないときは、関節の筋を痛めることになりますので、「巻藁」等で負荷を掛けると筋を痛めるのを防げます。
そのための巻藁は硬いものでなく、逆に柔らかい方が目的に合っていることになります。
例を挙げれば、「船越義豪先生の巻藁は柔らかくてよくしなった」といわれています。

別の例をあげると、サッカーなどでボールを空振りして蹴ると足の筋を痛める場合があります。
しかし、ボールをどんなに強く蹴っても足の筋を痛めることはまずありません。
それは、ボールという負荷がかかっているために、結果として筋が守られているからです。
従って、ボール程度の負荷でよいのであれば、テコンドーの練習で使われるフォーカスミット(しゃもじを大きくしたような形のミット)を使って練習をするのがベストだと思います。これは、ボクシングのパンチングミットを用いたトレーニングに相当しますが、このフォーカスミットの利点は、受け手が直接衝撃を受けなくてすむという優れものです。

高速上段突きは平安初段に内臓されている。
さて、ここまで解説してきた高速上段突きが、実は平安初段(松濤館呼称)と同じものだと気づかれたでしょうか。
平安初段の第三挙動〜第五挙動における分解の主な解説は「手解き」を説明するものですが、用法を高速上段突きに直しても、術(身体操作)は同じです。実際には、手解きの用法の方が術は一手多くなります。
  
   第三挙動(写真23)     第四挙動(写真24)       第五挙動(写真25)

平安初段(ピンアン二段)の第四挙動の半歩引く動作は流派によって差異がありますが、意味するところは同じだと考えています。初心者が習いやすいように、動作を区切って演武する関係で、個別の立ち方と思いがちですが、術を加えて再現してみるとスイッチステップの途中の動作を止めて表現していることに気づきます。
型は動作の順番を覚えたら、用法を理解し、術を加えて練習しなれば意味のないものであり、云い方を変えると「術を抜かした技」「用法を抜かした型」は、外見は同じように見えても別のものであると考えています。

まとめ
今回の実験では、当初の目標であった「高速」について、ある程度、術の効果があったという結果になりました。
ただ、短時間の練習では上手く表現できなかかった箇所も実際にありましたので、今後の課題とさせて頂きます。
これからも師伝の技術といえども妄信することなく、謙虚に検証をしていきたいと考えています。
この実験が、古伝の技術や型における研究が進むきっかけとなれば幸いです。


第八動作〜十動作 (上段揚受け)
上段揚受けは、空手の流派に係わらず存在する受け技です。

平安初段を例にとれば「前屈立ち+上段揚受け」が続けて3回見られます。

前進しながら受け技をするのを疑問に思ったことはないでしょうか。
また、組手の時に上段揚受けが使えているでしょうか。
 この素朴な疑問の中にヒントがあります。

結論からいうと上段揚受けは「クロスカウンターパンチ」(交差法)なのです。

一般的には、両手を交差してから上段揚受けをしますが、この「両手の交差」も意味があります。この部分はクロスカウンターを打つ前の準備動作になります。

相手が右上段追突きをしてきた場合、左足を進めながら、右手(後ろ手)掌底で相手の突きを右下から左上へトスを上げるように弾くと同時に左上段揚受けの動作を行うと、肘を曲げていることで自分の手に沿って相手の突きが中心からそれていき、相手の右手に沿って相手の顔面にクロスカウンターが入ります。
要約すると二段受け+クロスカウンターパンチとなります。

両手で二段受けをする意味は本能を応用したものです。
 不意な方向からボールが飛んできたとします。大方の人は本能的に防御本能が働いて、両手を顔面の前にあげることと思います。
 このように本能を利用すると同時に、二段階にして受けるのは受けを確実にする為です。

この例を実験するとわかるのですが、片手上段揚受け(この場合は受け技)では恐怖心が出てきます。
 両手で受ける方が怖くないことに気が付くはずです。

さらに受け技だけより、半歩進めて攻撃(この場合はクロスカウンターパンチ)をすることで、更に恐怖心が少なくなっていることに気づくはずです。


第十一動作〜第十四動作 (手刀受け)
この「手刀受け」も空手らしい動作の一つですが、一般的には使うのが難しい技です。
 平安初段を始めとして、多くの型にこの手刀受けが出てきますが、納得がいく解説をしたものは見当たりません。

引手側の手刀は、鳩尾の防御と言われているが本当にそうなのだろうか。
 内受けや外受けでは、鳩尾の防御をしないのに、手刀受けだけ鳩尾の防護をするのはなぜでしょうか。
 前進しながら受けているのはどうしてだろうか。
 その方向への動作が、手刀受けをして終わる型があるのはどうしてだろうか。
 皆さんは、このような疑問を持ったことはないでしょうか。

一般的な分解組手では、相手の右中段追突きをさがりながら左手刀受けで受けて、右手刀を振り上げて相手の首へ手刀を打ち込む。
 あるいは右の手刀を貫手にして攻撃するというのが行われています。

それでも、やはり使えないことには変わりありません。

私は、久保田先生から「十字受け」の一種として「手刀受け」の説明を受けました。
 先生は「大事なのは動作の過程であり、結果ではない」ということを強調しておられました。

「上段揚受け」と同様に、まず名称が動作を間違えるように付けられています。本土用に改変された部分です。

この「手刀受け」と呼ばれる動作の目的は「目突き」です。

相手の右追突きに対して、左足を半歩進めつつ、右手(後ろ手)掌底で左外側に払います。
 次に、手の甲を上にして左手手刀で更に受けます。受けを確実にする為の2段階になっています。
 受けが終わった時点で左手手刀の指先は、相手の目の前5〜10センチくらいにあるはずです。
 ここから手刀を熊手にして相手の目を突けば、自動的に目に入ります。

「空手道大観」の中で城間真繁氏は、手刀受けからの変化動作として、前手で上段突きを示しています。趣旨は同じだと思います。
 ただ、この本は小学校へ空手を導入するための紹介本の性格が強い為に、「目付き」ではなくて「上段突き」となっています。

 
手刀受けの隠し手金的蹴り
手刀受けをするときに後屈立ちとなった前足は、金的蹴りの意味合いが含まれています。
 目突きをすると相手は当然、上体をそらして避けようとします。
 (この状態では手が間に合わない為)
 そうすると自動的に下半身がガラ空きになりますので、そこに金的蹴りをすると必然的に当たることになります。
 この用法も、糸洲門下の城間真繁氏が「空手道大観」の中で写真入りで説明されています。


これでお分かりだと思いますが、平安の型は体育用に改変された型ではありません。シンプルではありますが、極めて危険な用法を含んでいます。

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