
空手の型は、そのままでは使うことができません。
それは、外部に対して秘密を守るということと、段階的練習の為にバラバラにされてい
るからです。さらに、演武のための様式美の概念が入っているために余計に解釈が難しく
なっています。
暗号化された型の解釈(分解)をするときに、いくつかのキーワード(口伝)が必要です。以下に述
べるキーワードは、久保田紹山先生より教えていただいたものを整理したものです。
口伝は秘伝ではない
コンテンツ一覧に「分解の口伝」とあるとおり、型分解に必要な口伝を解説しています。
糸洲安恒先生が作られた入門用の型である「平安」は、初伝技法として分類することができます
が、公開されて100年経った今でも、マトモな分解が公開されたことはありませんでした。
従って、このレベルでさえ公開されていませんでしたから、秘伝(秘密にされていた伝承)と思うの
も無理もないかもしれません。
しかし、ここに公開している型分解の口伝は、「初伝〜中伝」レベルの口伝となります。
私が定義する秘伝とは、私のHPの上達論を読んでいただければ解るとおり、技法レベルのこと
を指しており、型分解のことではありません。
キーワード1:相手は正面に一人
空手の型の解釈でよく間違えるのは、演武線に惑わされて違う解釈をしてしまうことが
あります。
前後左右の敵をバッタバッタと倒すわけではありません。
原則的として「相手は一人で正面」ということです。
その敵を前後左に引きずりまわして制圧すると考える方が、型を解くためのヒントにな
ります。
キーワード2:掴む
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船越義珍先生の写真に、相手の手首を掴んで顔面を突いている写真があります。
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この「掴む」という技術に、型を解くための多くのヒントがあります。空手は簡単な言い方で表現す
ると「掴んで殴るを高度化したもの」と言えるでしょう。掴んで引きながら突けば、必ず当てること
ができ、また必ずKOできるからです。打撃系武術の命題である「当てる技術」と「倒す為の威力」
が同時に得られるからです。
それでは、掴む為にはどうしたらよいのでしょうか。
そのためには、攻撃してくる相手の手を叩く(受ける)と一時的に動きが止まるので、その状態を
作れば掴むことができるのです。
従って、叩いて掴む為には両手を使った二度受けが、最も合理的な技術なのです。
久保田先生は「十字受けをよく研究しなさい」といわれていました。
キーワード3:両手で受ける
久保田先生がよく言われた「十字受け」の教えは、両手で受けるということです。
両手で二段受けをする意味は、本能を応用したものです。
不意な方向からボールが飛んできたとします。大方の人は本能的に防御本能が働いて、両手を
顔面の前にあげることと思います。
このように本能を利用すると同時に、二段階にして受けるのは受けを確実にする為です。
実験するとわかりますが、片手上段揚受け(この場合は受け技)では恐怖心が出てきます。
後ろ手で補助のトスを入れて、両手で受ける方が怖くないことに気が付くはずです。
さらに受け技だけより、半歩進めて攻撃をすることで、更に恐怖心が少なくなっていることに気
づくはずです。
両手で受けるのは、交差法へ展開するための入り口なのです。
キーワード4:動作につけた名称はカモフラージュ
昔の唐手には、動作の名称がなかったようです。(新垣清師範の著書にも書いてあります)
少人数では「こうするんだ」と動作を見せれば、それで済んでいたのだと思います。また、固有名
詞は思考が居着く可能性もあるので、必要ないと思われていたのではないでしょうか。
個々の動作に名称をつけたのは、本土に入ってきてからです。
本土では主に大学の部活動を中心に普及してきましたが、同時に多くの人を指導する為には、
動作の固有名詞が必要になります。
また、普及の為に指導書を書くためにも、固有名詞が必要となりました。松濤館では、昭和10
年頃まで掛かって、指導体系を整えたと言われています。
沖縄の空手家たちも、松濤館で作られた固有名詞を逆輸入してきた経緯があります。
しかし、この固有名詞の付け方に問題がありました。
「秘密協定」に従って実際の用法をカモフラージュする為に、別の用法の名称をつけてしまいま
した。
型の動作を変更したことよりも、動作の名称を別の用法の名称を付けたことの方が、問題が多
かったと思います。
実際、久保田先生から教えられた分解組手では、「〜受け」と呼ばれる動作が「攻撃」として使
われることが多々ありました。
要するに、動作の名称に惑わされては型の解釈ができないということです。
キーワード5:前手は攻撃
型を解く為の重要なキーワードです。
攻防において一般的な認識は、「前手で受け」て「後手で反撃」をすると思われている方が多い
と思います。
空手の指導書や型の本に載っている用法においても、そのようなものが多いのも事実です。
しかし、型の分解の場合には、その用法が実際には使えないという場面が少なくありません。
例を挙げれば、平安二段(ピンアン初段)の第一動作の分解が良い例でしょう。従来の分解で
はどんなに練習しても使えないでしょう。これは、前手を受けだと思っているから、分解がでたら
めになってしまうのです。
後ろ手で受けて、前手で攻撃という解釈でなければ成り立たないのです。
そのように考え分解組手をやってみると、様式化して抜け落ちてしまった動作を復元することで
きます。
「空手の戦闘法」でもふれましたが、本部朝基語録には、「受け手がすぐ攻め手に変化しなけ
ればならない。一方の手で受け,他方の手で攻めるといようなのは,真の武術ではない。さ
らに進めば、受けと攻めが同時に行われる技が本当の武術である。」
「真の唐手に対しては、連続突きなどできない。それは真の唐手で受けられたら、次の手
は出ないからである。」と書かれています。
この言葉は良く噛みしめなければいけないと思います。
また「動作につけた名称はカモフラージュ」として書きましたように、その言葉に騙されて前後の
動作入れ違えているケースが多いと思われます。(騙しの張本人は、・・・以下自粛)
キーワード6:信じる者は騙される
いやー、参りましたね(^^;
マルクス風にいうと「全ては疑い得る」ということでしょうか。
大体、武道や武術の伝書などは、技術を盗まれないように嘘が書いて有ったりします。あ
る伝書などは、「右手」と書いてあるところが、実は「左手」だったりします。伝書を盗
まれても技術が盗まれないように、暗号化されていることがあります。
このような場合、教伝を受けたときにその正誤表に相当するものを自分で作成するので
す。従って、伝書と自分のメモがなければ他の人が読んでも解らないようになっていま
す。
それと同じように、空手の型に暗号解読の為の鍵がなければ、解読することはできませ
ん。
ちょっと習ったくらいで知ったかぶりをすることが一番危険なのです。
キーワード7:下段は上段、上段は下段
先生「下段は上段に使う」(ニヤニヤと笑っている)
私 「はぁ? 下段は上段に使うぅ?
例えば、下段払いは上段に使うってことですか?」
先生「そうだよ。」
私 「うーん・・・"上段"じゃなくて"冗談"じゃないですか?」
先生「わはははは。宿題だね♪」
私 「冗談じゃないよ。ったくぅ〜」
「なんで下段払いが上段に使えるんだぁ? ひょっとして、先生は耄碌したのか?」と密かに思っ
てしまいました。
最初、久保田先生が何を言っているのか、まったく理解できませんでしたが、この口伝により、
今まで解けなかった分解組手があっさりと解けることが判って来ました。
恐るべし・・・耄碌(^^;
キーワード8:受けで終る動作はない
一見するとどの型にも「受けで終ると見られる動作」があります。
しかし、実際に受けて終るということはありえませんので、必ず反撃の動作が存在しています。
一般的には「隠し手」として「攻撃技が省略されている」として分解に突きや蹴りを追加していま
すが、本当にそうなのでしょうか。
攻撃技があるものと無いものの差は何なのでしょうか。
分解を紐解いてみると、多くの場合、受けだと思っていた動作が攻撃であることに気がつきま
す。
キーワード9:踏み換え(スイッチステップ)
空手の型の殆どは、「歩き足」の運足となっています。現代剣道やボクシングのような「継ぎ足」
ではありません。しかし、組み手では多くの人が「継ぎ足」を使っています。
ここに大きな矛盾があるわけです。
このギャップを埋める口伝が「踏み替え」(スイッチステップ)です。
「左下段払い⇒右追突き」は、初心者が習いやすいように「バラバラにされた動作」になっていま
す。「バラバラにされた動作」というのは、「本来は一拍子で行う動作を二拍子で行っている」とい
うことです。
この2動作を実用化するには、「下段払いと追い突きを同時に行う」のですが、立ち方が下段払
いは左前屈立ちであり、追い突きは右前屈立ちですので、これを同時に行うには、踏み変え運
足(スイッチステップ)という術(コツ)が必要になります。
左前屈立ちで、左膝の脱力及び落下をしながら前進します。
右足が前に出て、右前屈立ちになる直前に左下段払いを行い、右足の着地と同時に右追い突
きを行います。さらに、左足が後方へスライドします。上半身の左下段払い右追い突きの2動作
と下半身の踏み換えを一拍子で行います。両足をスライドすることによって、拳に重さを乗せるこ
とができまた、間合いの調整が可能になります。
キーワード10:一点一側の事
相手が反撃できない体勢にするための方法のことです。
相手の一点を我が一方の手で極めると同時に、我が他方の手をもって、相手の一点側の肩か
ら頚部にかけて打ち崩すこと。
例:平安二段(松濤館以外は平安初段)第一挙動〜第三挙動
第二挙動で相手の手を十分に捻り、反撃できない体勢にしることが重要です。
キーワード11:蹴りは掴んで低く行う
蹴りについては、昔から「帯より下を蹴るのが効果的である」と昔から言われています。
昭和初期の「拳法空手」に出てくる蹴りの解説の殆どが「金的蹴り」でしたし、また、東大空手部
の防具付き組手では、前蹴りは金的カバーを蹴ることでポイントを取っていたようです。
型の分解を紐解くと「低く蹴る」だけでなく、「掴んで蹴る」という動作になっている場合がありま
す。こうすると、「一本足で立つ」という不安定な状況を克服することができ、また、相手を掴んで
崩すことによって、相手に反撃をさせないようにコントロールすることができるので、確実に蹴込
むことができます。
例:平安四段、ジオン
「掻き分け」と呼んでいる動作は、相手の突きを両手で捕らえて体勢を崩す意味です。
体勢が崩れた相手を維持したまま、前蹴りを腹部或いは頭部へ極めます。
キーワード12:二拍子を一拍子で行う。
型は、一拍子で行う技を二拍子で行うように表現されていることが多いので、二拍子のままどん
なに早くやっても実用にならないときは、前後の動作をよく観察することが重要です。
また、踏み替え(スイッチステップ)等を併用して一拍子に組み替えると上手く分解が解けること
があります。平安初段(松濤館以外は二段)の最初に出てくることに意味があると思います。
キーワード13:天に吊るす
合気道的表現を借りれば、小手捻り系統の技のことです。
型の中では、挙動と挙動の間の動作に含まれていることが多く、云われなければ気がつくことが
困難です。護身的技術としては、実用性が高いので研究することが必要だと思います。
例:ナイハンチ二段第二挙動 平安三段最終挙動
キーワード14:受替えと持替えの事
受けるだけでなく、両手を用いて、相手の攻撃を次々に封じ、コントロールするための方法を表
しています。
例として、平安三段の最初の三挙動をあげておきます。相手の両手がクロスして反撃できない
ようにする方法は、中国武術の表現では「封手」というのだそうです。
例:平安三段 第一挙動〜第三挙動
キーワード15:杯を乾す
相手の腕を立ったまま逆技で極めるときの状態を表しています。
この表現を顕著に表しているのが、抜塞(パッサイ大)の分解です。
例:抜塞大
キーワード16:天地に迎える
両手の掌底を上下に動かす動作のことです。
「迎える」となっているように、相手の手を十分に伸ばさせるために引き込むことが重要です。
また、捕らえた後は、肘或いは肩の関節を脱臼させる技法となっています。
脱臼させるには、押すだけではダメで、複数の角度を持って極めなければなりません。
例:飛燕(ワンシュウ)
キーワード17:背後を取る
相手の背後に回るのは、最も反撃される可能性が少ないポジションで、幾つかの型の分解に見
受けられます。最も真後ろというよりは、横或いは斜め後ろに取ることが多いと思います。
先に挙げた、観空(クーシャンクー)の例も背後を取っていますので参照してください。
別の例として平安三段の最終動作を挙げておきます。
左右の「後ろ肘打ち+振り突き」をセットで一拍子に使います。このとき、運足で背後を取るよう
にすれば、下記の例のように相手を投げることがでます。
例:平安三段 最終動作 後肘打ち+振り突き
口伝は書かれていた
最近、空手の古典といわれている本を読む機会が増えてきました。良く読んでいくと、「口伝」が
書いてあるではありませんか!
もちろん全部ではありませんが、特に「掴手」「引手」について、船越義珍先生の初期の本に明
確に項目として書いてありました。
「掴手とは、敵の入れてくる手を掴み身をかわして反らすこともあるが、掴まえた手を引きながら
相手の力を利用して、術を施すことは一層妙である。掴手の妙はまったくここにあるのである。」
「引手とは、敵の入れて来る手を利用し、それを掴まえて引くの意で、なるべくこれを捻りながら
引くと敵自身はもたれかかってくるのである。」
他の部分はともかく、この部分はなぜ、忘れ去られてしまったのでしょうか?
その他の部分についても、「口伝」が解っていなければ読み飛ばすような箇所もあり、表現には
非常に苦労した跡がみて取れました。
他系統の口伝
「世界の文化遺産 沖縄空手の巨星たち(新星出版)」という本の中に、長嶺将真先生の項で、
興味深い記事を見つけました。
長嶺先生が、本部朝基先生に習ったときの内容を、箇条書きにして本部先生に見せたところ、
「これでよろしい」と了解を得たのだという。
1.一回の突き(或いは蹴り)で、防御攻撃を同時に兼ね行う技の工夫。即ち二つの動作を一つ
の動作ですませる工夫。
2.防御攻撃を同時に両手ですませる工夫。
3.手と足を同時に使用して防御攻撃をすませる工夫。
4.敵の正面に立つべからず。敵の側面に己を位置する転身の工夫。
5.蹴りは相手を捕まえたら放つ、相手に捕まえられてもすぐ放つ、つまり常に先手をとる工夫。
と書いてあります。
概ね、私が受けた口伝と共通するようです。
また、同書に、本部先生が長嶺先生に言われたこととして「相手に打撃を与えるには接近しなけ
ればならない。しかし、双方の間合いが崩れるほどに接近すると正拳の働きは制約をうけ、その
威力を十分発揮できなくなる。その決死の間合いで威を示すのが鶏口拳(一本拳)であり裏拳で
ある」と書かれています。
高速上段突き(古伝の術を使った高速上段突き)
競技の達人もすなる「高速上段突き」といふものを、麻呂もしてみむとて、するなり。
9月号に掲載された月井先生の「高速上段突き」の解説は、大変わかりやすく、読者の皆さんも
大いにレベルアップのための練習の参考になったことと思います。
この特集を見て思い出したのが、元世界チャンピオン鈴木雄一氏のリズムのよい、飛び込むよ
うな追突きでした。彼が組手競技にフットワークを取り入れ、小さな体で国内外の試合で活躍し
て以来、世界の組手競技のスタイルは変わりました。
空手も、色々な人の技術を分析し整理すれば、新しい術(身体操作)が浮かび上がるかもしれま
せん。願わくは、歴代のチャンピオンの技術をさらに分析して、後進の育成に役立ててもらいた
いと思います。
さて、話を高速上段突きに戻すと、野球の投球フォームが人それぞれ違うように、突きひとつと
ってもやはり、人によって同じではありません。
基本の動作と実際の動きには、動作の乖離があります。これは、基本動作を様式化された型か
ら抽出していることによります。それでは、基本動作は間違いかというと、そうではなく始めにフォ
ームを整えるために必要だと考えています。
ひとつ例を挙げれば、「移動稽古で行う追突き」と「組手で行われる追突き」を比べれば理解でき
ると思います。移動稽古の追突きは多くの場合、足を着地させてから突く、或いは足の着地と同
時に突いていますが、組手や試合の動きをビデオに撮って再現してみると、突いた後に足が着
地します。
従って、基本のフォームを覚えた後、使用するに際しては別の身体操作が求められるはずでの
で、どのような突きが合理的な突きなのか、今後も研究する必要があると思います。
今回、編集部から「高速上段突きについて特集をお願いします」という依頼がありました。
「私に云われても困ったなぁ」と思ったというのが正直な感想です。
私自身には、鈴木雄一氏や歴代のチャンプのような恵まれた身体能力はありません。
しかし、師伝のいくつかの技術を用いた私なりに考える高速上段突きでいいということで、編集
部の許可を頂きましたので、術を使った「高速上段突き」を解説してみます。
古伝の技術とは、何代もかかって蓄積し精選練磨されてきた合理的方法の集合体ですので、そ
れらを用いれば、凡人でも一流選手が行う技術に近づけるものと考えます。
ここでは、いくつかの術(身体操作:コツ)を用いて、高速上段突きを分析して解説をします。
「高速上段突き」を一言で言えば「高速上段"追突き"」です・・・これでは説明になっていません
ね。改めて言い直しますと、高速上段突きに必要な要素は、「いかに早く運足をするか」「いかに
早く突きを出すか」ということに尽きると思います。
そこで、問題解決のセオリーである「困難は分解せよ」の通り、まず幾つかのパートに分けて問
題解決をし、その後、それらを統合して「高速上段突き」を構築する方法を取ります。
上段追突きの動作そのものは特別難しいものではありませんが、高速にするために加えるオプ
ションである術(身体操作)は、個別に練習しなければ身に付けることはできません。
複数の身体操作を同時に練習しようとすると、相当に才能に恵まれた人以外は習得が困難にな
ると思います。
個別に習得した後に、それらを上段追突に一つづつ加えて練習してみてください。
6つの術の単独練習
高速上段突きを、以下に述べる6つのパートに分けて見ました。
それぞれに幾つかの身体操作を、突きを行う前に単独で行ってみましょう。
1:中心を収める
中心軸については、10月号の特集に詳しく書きましたので参考にしてください。
体を自由に動かすための体勢づくりと考えていただければよいと思います。
第一のコツは、体の無駄な力を抜くこと。特に、顎の力を抜くこと。
第二のコツは、拇指球で立つこと。
第三のコツは、意識を丹田に落とすこと。(写真1)
津山克典先生の「基本練習の全て」というビデオで、足の指先を揚げて片足で行う基本動作を
拝見しましたが、同じ機能的な意味合いでそうされているのではないかと思いました。
10月号では呼吸を止めて説明をしていますが、それはあくまで中心軸を作る過程、感覚を充分
体得する前段階までの方法ということですので、感覚を体得すれば呼吸を止める必要はありま
せん。
10月号に書いた内容は初歩の部分であり、中心軸を「作る」までを解説しており、中心軸を使う
には、別の概念が必要であることを予めお断りしておきます。
1月号の永田先生の特集「覚醒せよ! 中心軸⇔二軸感覚」を参照してください。
(写真1)中心軸
2:膝の力抜き
膝の力を抜くには、月井先生の高速上段突きの特集でも説明されていた、「膝カックン」のイメー
ジで行います。(写真2)
何度かやってみると感覚がわかってくると思いますので、実際にやってみてください。
前屈立ちで前足の膝の力を抜いて、落下するエネルギーを前進するためのエネルギーとして転
用します。落下によって初速を確保するためのものです。
(写真2)膝の力抜き
3:スイッチステップ
体勢及び両足の前後を入れ替えるために、ジャンプしないで両足をスライドさせる方法です。
空手の型の運足は、足を交互に前に出す「歩き足」で構成されており、この意味するところは、
両足をスライドさせて踏み替える方法(スイッチステップ)の示唆です。
平安初段(松濤館呼称)の最初の挙動である「下段払い→追突き」は、スイッチステップを用いて
行うと実用化できます。スイッチステップについて、7月号の特集に詳しく書きましたので参照し
てください。
下段払い(写真3)
スイッチ途中(写真4)
スイッチ追突き(写真5)
このスイッチステップのメリットとして
1:間合いを調整できる
2:スピードが速くなる
3:突きの威力が増大する
ことがあげられます。
通常の移動稽古で行う追突きのスピードと、スイッチステップを用いた突きのスピードを比べて
みれば、この方法の優位性の一端は、理解していただけるものと思います。
4:ダブルツイスト
ダブルツイストの名づけ親は、谷派糸東流の谷長治郎先生です。
ダブルツイストとは、一拍子で腰を前後に振る動作のことです。
ダブルツイストを単体で行うには、騎馬立ち(並行立ち)で立ち、体全体をリラックスさせ、膝を緩
めて、右腰を後方へ引き、(写真6)続いて右腰を前方へ出します。(写真7)(写真8)
帯が右左に揺れ戻るように、骨盤の水平移動を一拍子で行います。
そのときに、写真のように両手腕がブルンと自然に振れるように、肩や腕の力を抜いておいてく
ださい。
よく、「帯が揺れないように〜」ということを聴きますが、これは練習の最終的なカタチとして、外
見上の動作を極力小さくしたときのことだと思います。
(写真6)
(写真7)
(写真8)
次に、ダブルツイストを使って突きを行ってみます。
前半の腰の引きと同時に手を引き、後半の右腰を前にだす動作と一緒に手を前に放り投げる
ように突き出し、伸びきる手前で握り込みます。体全体を鞭のように使うことが重要です。
このダブルツイストは、突き、受け、投げなどに全ての技術に応用できますので、単体でも十分
に練習してください。
5:二軸理論の身体操作(腰を捻らない)
中心軸と二軸理論は相反する概念ではないかと思われるかもしれませんが、「体を作る方法」と
「使う方法」と考えてくだされば整理がつくと思います。
人間は二本足で足を交互に動かして歩きます。このとき、中心軸感覚のまま、走歩行するとど
のような動きになるでしょうか。
この感覚で体を前へ進めようとすれば、振り出された脚と同側の骨盤(腰)が前方に動くように
回転します。この骨盤の回転を補償するために、肩を骨盤とは逆方向に回転させることになりま
す。これが中心軸感覚の走歩行、つまり我々が一般に行っている走歩行です。
つまり、逆の回転運動を相互に衝突させて打ち消すため体をねじりながら歩くので、エネルギー
をロスすることになります。
そこで、中心軸を左右に移動し、体幹部の中心を維持しながら、そこを基点として、反対の骨盤
と足を前進させます。
中心軸を両足の真ん中にあるまま、逆突きをすると腰を捻ることになります。(写真9)
(写真9)HK7A0040
中心軸を前足に移動させ、「股関節を折るように」突き側の半身を前に出します。(写真10)
そのとき、片足の骨盤を支点とすると回転半径が大きくなり、ロスがでますので、それを打ち消
すために、型で使う運足が生きてきます。つまり、後ろ足を前に移動するときに、両足を寄せる
ようにして、内側に孤を描くような運足をすると回転半径が小さくなり、素早い体の入れ替えが出
来るはずです。
注:2軸理論は常足(つねあし)として公開されていますので、詳しくはそちらを参考にしてくださ
い。(本当のナンバ常歩(つねあし)、木寺英史著、スキージャーナル)
(写真10)
6:上腕の力抜き
右手で相手の右手の人差し指を掴み、強く握ります。そのとき、前腕は力が入って硬くなってい
おても、上腕の屈筋(力コブ)のところの力が抜け、柔らかくなっていなければいけません。
相手に上腕を触ってもらい、力が抜けているか確かめます。(写真11)
この上腕の屈筋に力が入ると、突きにブレーキがかかりスピードも威力も落ちてしまいます。
従って、上腕の伸筋は収縮し、屈筋は弛緩しなければなりません。
このような方法を古武術では「体を割る」と表現するようです。
(写真11)
余談ですが、早く動いたのではこの「体を割る」状態を認識できませんので、サンチンやセイシャ
ンをゆっくり演武するのは、この状態を確認しながら練習するためだと考えています。
以上で術(身体操作)の個別の解説は終了です。
次に、上段追突きに上記の術を加えて実験してみることにします。
最初は、解説のために比較的ゆっくり突いてもらい、最後にどれだけ早く突けるか実験してみま
した。
桧垣式 高速上段突きの実験
1:中心軸を作る
左前に構えます。体の力を抜いて、拇指球で立ち、丹田に中心を納めるように意識します。
これらは起こりをなくすためと同時に、すばやく動くための準備状態となります。
(写真12)
2:前足の力を抜く(力抜き)
構えた状態から、前足の力を抜いて、重心を前に移動させ、落下による前傾を始めます。
膝の力を一気に抜き(写真13)ます。
(写真13)
3:前足を半歩引いて落下による加速をする
人間は倒れそうになると、自動的に体勢を立て直そうとします。
従って、意識で「膝の力を抜いて・・・」と思っても、本能的には倒れないように足を踏ん張るとい
う行為を無意識のうちに行ってしまう場合があります。
力を抜けば倒れてしまうのですが、倒れないということは、まだ力が入っているということになりま
す。そこに足があるからそうなるので、その前足の存在を消してしまえば確実に倒れることにな
ります。これは、半歩引くことにより、落下による初速を早めることになり、その後に続くスイッチ
ステップの予備動作となります。
前足を引く(写真14)
4:ダブルツイストで突きを加速する。
前足を半歩引いて、体が落下により加速し始めているときに、ダブルツイストを使って更に加速
します。イメージとしては二段ロケットのような感じです。
別の言い方をすれば、膝の脱力をし、半歩引いて前傾姿勢をして、後述するスイッチステップは
下半身の早さであり、ダブルツイストと腕の脱力によって上半身の速さを得るということになりま
す。
それも素早く一拍子にて、小さくダブルツイストをかけ、右の突きを出し始めます。
(写真15)
5:腰を捻らず、股関節で上半身が折れるようにして、上段突きを出す。
(今回の実験の写真では、前足を引きすぎているためにこの部分が上手く表現できませんでし
たので、イメージだけ、お伝えすることをご了承ください。)
次にダブルツイストの後半には右半身が前に出ますが、そのとき腰を捻らないようにします。
腰を捻ると突きが遅くなりますので、その代わりに、左股関節を軸に右半身が折れ曲がるように
します。野球のピッチングをイメージしてもらえると、理解いただけると思います。
左股関節を中心として、右半身が前方へ飛んでいく感じです。
左足前で軸が左足に移り、右半身が前となります。
右半身に合わせて右足が引き寄せられ、回転半径を小さくして無駄な動きを抑えることになりま
す。
これは型の中で表現される孤を描く運足に相当します。
6:腕の脱力と極め
右手の上腕の屈筋を開放し、突きにブレーキをかけないようにします。
突きが伸びきる寸前で指を握り込みます。この指を握りこむときに「バラバラ」と指が鳴るように
握り込みます。(指の力が抜けていればできるはずですが、今回の実験ではそこまで出来ませ
んでした。)
(写真16)
7:右上段追突きとなる。
後ろ足を前に移動させ、右前屈立ちとなり、最終的に追突きのカタチとなります。
突きは、移動する右足が着地する前に終わっていなければなりません。
ピッチャーが投球した後のフォロースルーと同じようなものと考えて頂くとわかりやすいと思いま
す。
(写真17)
以上、文書で長々と書いてきましたが、ここまでの動作を一拍子で行います。
練習をするコツは術(身体操作)を個別に練習し、それをひとつづつ加えていくのがよいでしょ
う。最初に全部を同時に行ったとしても、どれもが中途半端となってしまう恐れがあるからです。
普通の上段追突きと高速上段突きの比較
比較のための連続写真を撮影しましたが、大変申し訳けないことに撮影に失敗しました。
当初、高速カメラで、「普通の上段追突き」と「高速上段突き」を撮って比較しようと企画し、一秒
間に8.5枚撮れるカメラ(現時点で世界最速だそうです)を用意してもらって撮ったのですが、突
きが早すぎて途中の動作がまったく撮れませんでした。
実際に高速上段突きで撮れたのは、「構えたところ」と「突き終わったところ」の2コマだけでし
た。
普通に早く突いてもらった突きでは、「構え」「途中の動作」「突き」と3コマ写りました。
従って、前出の術を使った高速上段突きでは、約2倍近く早くなったということになります。
実験のモデルを務めてくれた方(私は密かにモルダー2号と呼んでいる。)には、型の分解を教
えたことはありますが、術を教えるのは今回が初めてでした。
撮影前の一時間くらいの練習で、ここまで早くなることができたということは、それらの術がある
程度合理的身体操作であったことを物語っていると思います。
1秒間に8.5枚撮れるということは、間隔が約0.12秒ということになり、構えから突きが終わる
まで、(腕が伸びるまで)約0.12秒で出来たということになりました。
静止した状態から、約0.12秒でそこまで加速するわけですから、体に相当な負荷がかかること
が予想できます。
普通の上段追い突き
(写真18)
(写真19)
(写真20)
高速上段突き
(写真21)
(写真22)HK7A0131
仮に、この高速上段突きを受け側からみるとどうなるのでしょうか。
人間が、何かの合図を見てから行動を起こすまでに、どれくらいの反応時間がかかるのか例を
挙げると、クールなガンマン次元大介の早撃ちは0.3秒です。
日本国内で行われているモデルガンでの早撃ち(ルール:引き金を引き、微量の玩具用火薬を
発火させ、その風圧で風船を割るまでの速さを競う)の全国大会のベスト記録は、合図から割る
までなんと0.261秒だそうです。
これを単純に比較すると、目視だけでは受けられないほど高速になったことになります。
フォーカスミットを使った練習
ただ、今回の実験においては、いいことばかりではありませんでした。
突きが高速になるに従い、実験者が「肘関節が抜けそう」と言い出し、最高にスピードが上がっ
たあと、スピードが落ちてきたので聞いてみると「肘を痛めた」ということでしたので、実験を中止
しました。そこで、試しに座布団を空中にかざして、それに対して高速上段突きをしてもらったと
ころ、「これなら痛くなく突ける」ということでした。
私自身も以前同じような経験があったので、その経験から「巻藁」についてある仮説を立ててい
ました。その仮説とは、「巻藁は、拳を鍛えるという他に、高速になった突きから肘などの関節を
保護するために作られたのではないか」というものでした。今回の実験は、その仮説をある程度
裏付ける結果となりました。
実際にスピードを殺さずに重いパンチを出す為には、力を抜いて屈筋を開放することが必要で
すが、ここには矛盾があります。屈筋を開放して本気で突くとブレーキがなくなり、筋を痛めること
になります。それを防ぐには、腕が伸びきる瞬間にやはり屈筋でブレーキを掛けなければなりま
せん。
ブレーキが上手くかからないときは、関節の筋を痛めることになりますので、「巻藁」等で負荷を
掛けると筋を痛めるのを防げます。
そのための巻藁は硬いものでなく、逆に柔らかい方が目的に合っていることになります。
例を挙げれば、「船越義豪先生の巻藁は柔らかくてよくしなった」といわれています。
別の例をあげると、サッカーなどでボールを空振りして蹴ると足の筋を痛める場合があります。
しかし、ボールをどんなに強く蹴っても足の筋を痛めることはまずありません。
それは、ボールという負荷がかかっているために、結果として筋が守られているからです。
従って、ボール程度の負荷でよいのであれば、テコンドーの練習で使われるフォーカスミット(し
ゃもじを大きくしたような形のミット)を使って練習をするのがベストだと思います。これは、ボクシ
ングのパンチングミットを用いたトレーニングに相当しますが、このフォーカスミットの利点は、受
け手が直接衝撃を受けなくてすむという優れものです。
高速上段突きは平安初段に内臓されている。
さて、ここまで解説してきた高速上段突きが、実は平安初段(松濤館呼称)と同じものだと気づか
れたでしょうか。
平安初段の第三挙動〜第五挙動における分解の主な解説は「手解き」を説明するものですが、
用法を高速上段突きに直しても、術(身体操作)は同じです。実際には、手解きの用法の方が術
は一手多くなります。
第三挙動(写真23)
第四挙動(写真24)
第五挙動(写真25)
平安初段(ピンアン二段)の第四挙動の半歩引く動作は流派によって差異がありますが、意味
するところは同じだと考えています。初心者が習いやすいように、動作を区切って演武する関係
で、個別の立ち方と思いがちですが、術を加えて再現してみるとスイッチステップの途中の動作
を止めて表現していることに気づきます。
型は動作の順番を覚えたら、用法を理解し、術を加えて練習しなれば意味のないものであり、云
い方を変えると「術を抜かした技」「用法を抜かした型」は、外見は同じように見えても別のもので
あると考えています。
まとめ
今回の実験では、当初の目標であった「高速」について、ある程度、術の効果があったという結
果になりました。
ただ、短時間の練習では上手く表現できなかかった箇所も実際にありましたので、今後の課題
とさせて頂きます。
これからも師伝の技術といえども妄信することなく、謙虚に検証をしていきたいと考えています。
「賢き者は歴史に学び、愚かなる者は経験に学ぶ」とはビスマルクの言葉だそうです。
この実験が、古伝の技術や型における研究が進むきっかけとなれば幸いです。
つづく
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