
3-1 武道の名人達人について
嘉納治五郎 18歳で入門、23歳で講道館を開く
西郷四郎 17歳で入門、21歳で全日本制覇
(この他にもいくつも例をあげたいのですが、既に手元の資料が無くなっており申しわけありま
せん。)
過去の名人達人の資料を集めてみると、意外にも平均すると5〜6年くらいでその流派の免許
皆伝という例が多いことに気がつきました。
私の研究はこの疑問から出発しました。
人生50年といわれた昔には、20年〜30年やらなければ完成しない武術では役に立たないで
しょう。
仮に30年かかると仮定すれば、修得するのに30年、後継者を作るのに30年では「お前は既
に死んでいる!」ということになります。
それでは進歩発展を見込めないばかりか、技術が失伝する可能性すらあります。
生涯続けるということと、その流派の技術体系を一通り身に付けるのとは意味が違います。
3-2 なぜ強くなれないのか
多くの方が努力の割に効果がなく、悩んでおられると思います。
悩みの内容を分類すると
1:時間を掛けないとだめなのか。20年から30年やらなければ技術は身につかないのか。
2:ウエイトトレーニングをしないといけないのか。
3:秘伝や極意を習っていないのか。
4:才能がないのか。
ということでしょうか。
今まで講義を読まれてきた方は、だんだん解ってきていると思います。
間違った技術では、時間をかけても使えるようにはなりません。
仮に 才能があったとしても、間違った技術では難しいでしょう。
これは上段揚受けの例で、お解りいただけたと思います。
間違った技術では、反対に弱くなる(上達しない)可能性があります。
組手は組手の練習、型は型の練習と別々にやっていたら時間は倍かかることになります。
もっと割り切って、自分は組手の選手だから型は殆どやらないというような現象が出てきている
ようです。
糸偏に冬と書いて「終わり」ですが、糸偏に春とかいても「始まり」とは読みません。そのような漢
字はないのです。
間違った字ではコミュニケーションを取ることができないのと同じように、間違った技(型の解
釈)や間違った練習では上達は不可能だと思います。
それこそ、体の大きい人や才能のある人しか強くなれないでしょう。
ウエイトトレーニングについては、筋力はあるに越したことがないのですが、現在ある筋力も充
分に使えていない人が殆どのようです。
私はウエイトよりも、筋力や体を効果的に使うやり方に重点をおくべきだと考えています。
ウエイトをいくらやっても発勁のような技術は身につかないでしょう。
3-3 上達の目的
上達の目的とは何でしょうか。
簡単に表現すれば、技が自由自在に使えることです。
相手の攻撃に「無心」に体が反応するまで技を訓練することです。
どのようにしたら技が自由自在に使えるようになるのか。
⇒ 上達論
3-4 無心の構造
無心というと名人達人の境地のようなイメージを抱く方が多いと思います。
よく初心者に向って「無心でやれ!」と言っている指導者がたまにいるようですが、本当に初心
者が無心に技を繰り出せるのでしょうか。
そもそも無心とはどのような状態を指すのでしょうか。
この項は南郷理論が最も得意な分野であると思います。
初心者の何も考えていない状態の無心と、名人達人の技が自在に使える無心とは内容が異な
るということです。
初心者と名人達人の間には修行過程の人がいます。
この修行者は技を意識的(有心)に練習をしなければなりません。
例をあげれば、赤ちゃんが歩くときは一歩一歩意識的に歩いています。
しかし我々大人は歩くときに一歩一歩意識してはいませんので、歩くことに関しては無心のレベ
ルにあるのです。
箸を使ってご飯を食べるときも、箸の使い方について意識をしないで食べられます。しかし、箸を
使ったことがない子供や外国人は、箸を使うときに意識的に行わなければなりません。
要するに、無心とは言葉を変えれば日常化ということになります。

3−5 量質転換の法則
さらに意識的に技の練習を続けていくと量質転換の法則により技に術が加味されてきます。
量質転換の法則とは形(技)を反復練習して、その形の効果的な使用方法を体得したとき、外
見上の形は同じでもその技の質が向上することをいいます。
古流武術では一般的に形の稽古から入り、それを反復練習して使えるようにする方法が一般
的です。
例:拳(こぶし)を拳(けん)に鍛える。
使えるようになった段階では動きが質的変化をおこし、その質的変化を一般化して取り出したも
のが、従来極意と呼ばれてきたものなのです。
古流は長い歴史の中でその実験がくりかえされ、練習体系の中に形の反復練習とコツである
極意(術)を各段階に組みこんできました。
3−6 上達の構造 第一段階(古流の練習過程)
古流の武術では一般的に形の稽古から入り、それを反復練習して実際に使えるまでにし
ます。
使えるようになった段階では動きが質的変化をおこします。
この過程を歴史的に繰り返すことによって、その流派の技術と練習課程ができてきま
す。

乱取りは柔道の専売特許ではなく、古流武術の中にも既にありました。
剣術の場合は、北辰一刀流に代表されるように防具をつけて試合形式の練習がありまし
た。
コツの体得は極意と言い換えてもよいと思います。
この極意を練習過程の各段階に組み込んであります。
この過程を段階的に繰り返すことによって古流の練習体系が成り立っています。

3-7 上達の構造 第二段階(柔道本来の練習体系)
柔道を興した嘉納治五郎師範は従来の練習体系では、個人の術の範囲を越えられないとして、
新しい時代にあうように護身、体育、精神の面から誰でもが安全に早く上達するように練習方法
の開発に乗り出し、畳という防具、柔道原理という理論及び練習体系を整えた。
柔道原理(自然体の理、柔の理、崩しの理)は従来、極意をいわれていたものを、練習の始め
に教えるので、誰もが早く上達するようになった。
上達の流れとしては、基礎、基本、応用、変化となります。
前項で極意(コツ)と言われていたものを基本(技)の前にもってきたことが、嘉納治五郎師範の
最大の功績だと思います。
基礎を充分に練習しないで、次の段階の基本へ行くと「崩れ」がおきます。
要するに上手くいかないのです。同じように基本が充分でないのに次の段階の応用をやっても
「崩れ」がおきます。
「崩れ」が起きると技が掛からない為に、「力とスピード」が余計に必要になってきます。
基礎でも無心となるように練習してから、次の段階にあがるべきなのです。
基礎と基本の段階を「技の創出」と呼びます。自分の体の中に武技を作る段階です。
応用と変化の段階を「技の使用」と呼びます。自民の体に身に付けた武技を使う段階です。
作る段階と使う段階を混同すべきではありません。
また、応用までは師より習うことができますが、変化は自得しなければなりません。
形態としてみるならば、基礎と変化は無形です。基本と応用は有形です。

無形 有形 有形 無形
例:
書道 永八法 楷書 行書 草書
柔道 崩し 投技 形 乱取
書道の場合
書道を例にとれば、書道の基礎とは「永八法」です。
永八法とは「永」の字を書くときの筆の使い方が八通りあることを言います。
この永の字のパーツがいつでも上手く書けるまで練習をしてから、基本の楷書に移行し
ます。
その後、応用である行書、変化である草書と段階を経ていきます。
柔道の場合
柔道を例にとっても同じです。柔道の基礎は「崩し」です。
相手の体をアンバランスにしてしまえば、次の段階の技が掛かりやすくなります。
いつでも「崩し」ができるように「崩し」だけ練習しなければなりませんが、現在の柔
道の練習体系ではこの「崩し」だけの練習はしません。
形も昇段試験の時に一夜づけでやる場合が多く、練習体系の中には入っていません。
したがって、技術の「崩れ」が起きることになります。
嘉納治五郎師範は理論としては説いたようですが、練習体系として残せなかったようで
す。
変化から基礎へ
また、変化まで行くと、変化を極めた人は「基礎が大事」だと言います。
三船十段の空気投げが良い例だと思います。
例:三船十段の空気投げ → 足で払ったりや腰に乗せないで、「崩し」だけで投げる
技。
しかし、一般人は「基礎」と「基本」が解っていないために「基本」をやる事になりま
す。
要するに「崩れていない」のに「技をかける」→ 技の崩れが起きるという悪循環にな
ってしまうことが多いのです。
3-8 上達の構造 第三段階(理想の上達過程)
以前、後継者と一般の弟子では修行過程が違うと書きました。
前項までのものを踏まえた上で、最も理想的な上達過程(後継者用)を整理してみます。
嘉納治五郎氏は、基礎である「崩し」を最初に持ってくるというアイデアを見つけ、なおかつ変化
である「乱取り」が安全にできるように畳の導入をしました。
それまでの柔術では土間にゴザを引いてやるような感覚だったようです。
もちろん、応用である形をやるのは当然でした。
しかし、嘉納治五郎氏はそこから先を明確に示してはいません。
今まで上達過程を整理してきましたので、説明の必要は無いと思いますが、以下に示す通りで
す。
→→ 基礎 →→→ 基本 →→→ 応用 →→→ 変化 →→↓
↑ ↓ ↓ ↓ ↓
↑ →→→→ 崩れ ←←←← ↓
↑ ↓
↑ { 技の創出 } { 技の使用 } ↓
↑ { 習得 }{ 自得 } ↓
↑ ↓
↑←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←
基礎 基本 応用 変化
初伝 D A B C
中伝 H E F G
奥伝 L I J K
秘伝 P M N O
該当する武道を分解し、基礎→基本→応用→変化及び初伝、中伝、奥伝、秘伝と並べ替え、
量質転換の法則にしたがって、各段階で無心に出来るようになれば、名人達人は短期間の内に
養成できるはずです。
長い歴史のある古流武術は、単に技術だけでなく上達に関する研究があったに違いありませ
ん。またそれは、上記のようなものであったはずです。
3−9 弁証法とは
文中でも書きましたが、学生の時は南郷継正氏の本や「試行」を愛読し、弁証法を身に付けよ
うと一生懸命でした。
しかし、文言が難解であり、たった一行を読むのに何回も読まねばならないことが多々ありまし
た。
これは、外国の文書を翻訳するときの関係代名詞の訳し方に問題があったように思われます。
そのような複雑な言い回し方で話すことがステータスのようになってしまい、物事の本質を解明
するという本題の作業をやりにくくしています。
弁証法というと難しいと思う方が大半でしょうが、今までの弁証法は言葉の定義が複雑で、尚且
つ弁証法自体の定義が明確でありませんでした。
弁証法といっても十人十色なのです。
弁証法の目的は「対象とするものを構造的に把握する」ということだと思います。弁証法を構成
する3要素を以下にあげておきます。
1:構造的に独立しているが相互浸透の関係にあること。
2:反転の反転の構造を含んでいること。
3:量質転換の法則を含んでいること。
それぞれの分野の専門家が、これを参考にして後進の育成に専念されることを祈念して、武道
技術上達論の講義を終了いたします。
この場を提供していただいた究源塾代表様に感謝いたします。
ありがとうございました。
また、積極的にBBSに参加していただいた方々に感謝申し上げます。
いつの日か、空手の型の分解と合わせてい一冊の本にまとめたいと考えています。
今から予約OKです。(^^;
TOPへ
Copyright (C) 2002 gennosuke_higaki All rights reserved.
当サイトに掲載されている画像、文章、その他著作物
についての著作権は当サイト管理人に帰属します。
無断で複写、配布、引用、転載等はお断りします。
リンクをされる方はご一報ください。
|